首里城の復元と沖縄の文化 高良倉吉氏
3.首里城復元プロジェクト (5)復元へのこだわり
- 復元は、要するに徹底して首里城を解剖することだと。それは当然、徹底した資料収集に基づくということだったわけですけれども、どれぐらいこだわったかという話を一つ例に挙げますと、一番最後の資料を見てください。先ほど触れましたように、この絵は、あと5年、10年たちますと、こんなものが仕上がりますという絵です。これに向けて、いま着々と検討作業を続けています。週に2、3回ぐらい、テーマの異なったプロジェクトがあって、私は大学の仕事の傍ら、首里城の作業にいまだうつつを抜かしているのですけれども。
- 例えば、分かりますかね。この真ん中辺に下之御庭と書いてある、そこに首里森御嶽という場所があります。実はこれは、首里城のとても精神的に大事な場所です。これはすでに復元しました。
- これは実は、復元するのが大変だったのですが、まったく写真が残っていない。デフォルメされた絵が1枚だけ残っている。それを出発点にして、さまざまな分析、検討を加えました。これはお祈りをする場所なのです。石垣で囲まれていまして、その前に昔はむしろを敷いて、畳を置いて、そこでお祈りをする。女性たちが祈った場所ですけれども。
- そこで歌われた神歌も残っていますが、問題なのは、そこは神様が降りてくる場所なのです。神様はどこに降りてくるか。この首里森御嶽の中に樹木が生えていまして、そこの樹木を使って降りてくるわけですね。
- この中に生えている木は、いったい何という木なのか。これが分からなかった。この木を間違えたら天罰が下りますから、ちゃんと昔と同じ木を植えなければなりません。そこでいろいろ検討したのですけれども、らちが明かない。ギブアップだなと。分かるまでは植えないでおこうと。植えないと神様が降りてこないし、どうしようという話だったのですが。
- 結局、すごく困ったときに、やはり世の中すごいなと思うのですけれども、ある友人から、東京の宮内庁の書陵部という、たくさんの資料を持っているすごい資料館ですけれども、そこから「実は変な写真がある」という連絡がありまして、送ってもらったのです。どうも首里城らしいということだった。
- 見た瞬間に、2メートルぐらいジャンプしたのではないでしょうか。あっ、あの木だと。首里城には奉神門という門がありますが、奉神門という門をこの写真は写したのです。奉る神と書いた長い門があります。その門を写した、もちろん白黒の写真ですが、奉神門を撮ったつもりの写真に、右手のほうに木の枝が伸びているのです。それは、いま私たちが探し求めている、首里森御嶽という中に生えて神様が降りてくる木が、奉神門の前に枝を伸ばしている状態の写真だと、すぐ分かりました。
- さて、この木はいったい何の木なのかということを、ピンぼけの白黒写真から植物の専門家に見てもらったのですが、二つの説に分かれたのです。見事に分かれましたね。Aグループは、これはガジュマルという木ですよと。もう断言しますと言っていた。Bのグループは、いや、そうじゃないと。ハマイヌビワという木だと。断言しますよと言うのです。いったいどうしようと。
- ガジュマルとハマイヌビワというのは、ちょっと似ていますけれども、決して親せきではない木です。困ったな、両方植えるわけにはいかないしと思いまして、じゃあといって、その場所を県の教育委員会の埋蔵文化財担当の人に掘ってもらった。ずっと下まで掘って、下には岩盤があります。岩盤まで掘ってもらったのです。そうしたら、こんな小さな木の根っこが4本出てきた。この根っこを琉球大学農学部の専門家に分析してもらって、組織を見てもらって、それでガジュマルだと分かったのです。じゃあガジュマルだと。
- そして、この首里森御嶽という場所は、木が育つにはちょっと環境の悪いところですから、そこと同じ環境で生えているガジュマルの木を探してきて、そこに植えたのです。当然、私たちの期待としては、このガジュマルが将来成長していくと、宮内庁の写真のような枝ぶりになる木を選びました。それぐらいこだわって復元しました。当然、その写真も分析したデータも全部、首里城の復元資料としてストックされております。
- そんな、ちょっと病気みたいなところもありますけれども、そんな作業をしながら、新車を復元するというすごく強いこだわりがないと、息づいていた首里城には達しないという話です。
- なぜそれにこだわるか、なぜ新車、呼吸している首里城を復元するかというと、繰り返しになりますけれども、後世のわれわれが志というかテーマを高くすることによって、より首里城に近づくことができる。われわれが首里城に近づくことができたら、それがたぶん、一応納得のいく復元になるのではないかという思いがあったから、そういうことをしたということであります。
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