戦中・戦後の子どものオーラルヒストリー
仲本實先生のオーラルヒストリー

参照リスト   (人々の暮らし)

食事 食事 食事 食事

  1.見張りをする   2.アメリカ兵につかまる   4.石川収容所の様子  5.どんな人たちが生活…

3.アメリカ兵との会話

 そして、 (連れて行かれた場所には、アメリカ兵が全部で)5、6名いたんですが、無線機を囲んで。そして(その中の一人が)本を持っているんですよ。本を持っているんだが、その中にね、兄貴がABCを見つけたんです、英語のABC。おそらく三角形のね、頂点のABCだったと思うんです。習ったのが。それをその本から見つけてね、「ABC」と言ったんですよ。

 そうしたら、アメリカの態度が一変しましてね。うんと喜んじゃって、(アメリカ兵が)「いやぁ、コレ(兄貴)、英語知っている!」と言うわけ。「ABC」と何回も言わされましてね。そして次と言うけど、今後ABCDのアルファベットを全部出して、読めと言うわけよ。ところが、彼が読めるのはCまで。Dから以後はもう全然読めないの。だからABCで、そして次は何かといったらBになるわけです。「ABCB」「Bじゃない、D」と言ってね、いろいろ教えるんですが、まあ、できるはずはないんですね。

 それで、そのうち段々と(うち)とけて来るんですよ。すると、あるところから無線がかかってきた。そのアメリカさんは無線を取って、何だかんだとこう、話をしているんですが、われわれのとこに向かって、「ヒロヒトデンプー」と言いなさいという感じで、ジェスチャーで言っているわけ。何も意味がわからんから、それと面白くなってるでしょう。ABCのことから。で、無線に向かって「ヒロヒロデンプー」と言ったら、大きな声で言ったら、わあっと笑って、喜んでいるんですね。

 それから、「トージョーイッセイ」と言えと。そしたら大きな声で、「トージョーイッセイ」と何回も言わされたんで、もううんと喜んじゃって。これはどういう意味か知らないんですよ。ところがあとでね、これが天皇陛下の今上裕仁、当時の天皇陛下の、名前だったんですね。要するに悪口なんですよ。「ヒロヒトデンプー」。それとですね、「トージョーイッセイ」というのはね、東條英機。当時の総理大臣の東條英機だったんですね。