戦中・戦後の子どものオーラルヒストリー
仲本實先生のオーラルヒストリー

参照リスト   (家族)

食事 食事

1.変わっていった生活      2.死が近づく

3.母との再会

 案の定、みんなを帰した後(先生から)、仲本お前待っとけ、と言われて待たされました。

 それでうんと油を搾られました。当時の先生は大変でしたよ。まず(左手で)あごを摑まれるわけですよ。歯をくいしばれ、といってバシーンと右手でビンタを張る。そうすると向こうにひっくり返っていく。立て、と言って今度は右手であごを摑まえて左手でビンタ。そうすると今度はあっち(さっきと反対方向)にひっくり返っていくんですよね。

 当時は(先生が)軍隊帰りですから、軍隊(の思想)が残っている。まあ、そんな風に何回かやられまして、それでも不思議なことに私は泣いた覚えはないんですよ。先生は、「君、座っとけ」、と言って職員室に帰って行きました。それで膝まづきして座っておったんですが、(先生は)いつまで経っても来ないんですよ。

 それで、どうしようかなと思っていながらそれでも座っていた。真面目ではあったんでしょうね、根は。すると、テントの垂れ幕の巻かれているのが下ろされているものだから、暗くなってるんですよ。外も段々暗くなっていく。(テントの)入り口だけは開いている。そうすると、そこから顔を出した人がいるんですよ。それが、うちのおふくろなんですよ。

 しかも、これが山で別れたきり会ったことがないおふくろだった。その時に初めてワァーと泣いた。それまでは涙一滴流さなかった。人というものは、強い時と弱い時があるなぁということで、そんな事件を起こしたことがあります。

 そして面白いことに母は漢那という集落にいたんですが、その頃は一般の人たちは車の乗り降りが出来ないのですが、石川に息子がいるから、と憲兵隊に頼んでわざわざその日に来ているんですよ。だから、親子の縁というのは大変なものですね。私が乱暴したとかそういうことは向こう(母)は離れているから知らないわけです。親子の縁は大事にしなきゃいけないな、と思いました。