朗読ビデオへ:MPG10.1MB邦訳注釈 /// |
||
"SHE WALKS IN BEAUTY" Ⅰ SHE walks in beauty, like the night Of cloudless climes and starry skies ; And all that's best of dark and bright Meet in her aspect and her eyes : Thus mellow'd to that tender light Which heaven to gaudy day denies. Ⅱ One shade the more, one ray the less, Had half impair'd the nameless grace Which waves in every raven trees, Or softly lightens o'er her face ; Where thoughts serenely sweet express How pure, how dear their dwelling-place. Ⅲ And on that cheek, and o'er that brow, So soft, so calm, yet eloquent, The smiles that win, the tints that glow, But tell of days in goodness spent, A mind at peace with all below, A heart whose love is innocent ! |
||
ひと 「かの女は美に包まれて歩む」 かの女は美に包まれて歩む 雲なき国の星空の夜のように。 闇と光のよい所がすべて かの女の顔色と瞳に集まり やさしく溶け合って生じた光は ぎらぎらした日中には見られぬもの。 陰ひとつ多く、光ひとつ少なければ その絶妙な典雅さは損なわれただろう。 それは烏羽玉の黒髪に波うつかと見れば 白き面の上をほんのりと照らす。 そこに現れる晴れやかにやさしい思いは その棲家である心の清らかさを語る。 そしてかの頬、かの額の上に やわらかく、穏やかに、思いゆたかに 心惹く微笑みや差しそめる紅の色は 心正しく過ごされた日々の証しであり 天が下の衆生とも争わぬ知性と 一切の邪念なき夢の心とを示している。 |
||
【注釈】 ○ Byronの恋愛詩が喜ばれるのは、どちらかと言えば古典的な均整美、形式美の ゆえである。他の詩人たちと違って、Byronは恋愛詩に全霊を傾けることをしない。いや、 恋愛そのものが遊びだったと言える。その余裕や客観性が、洗練された情緒と完成した 表現とを生み出したと考えられる。なかでも明暗の交錯だけで淑女の美をあらわした "She Walks in Beauty"は最も古典的な完成品である。けれども、このような「心正しき」 夫人に作者が本当に魅力を感じていたかは疑わしい。 >>以上参照:『ロマン派詩選』上島建吉解説注釈(研究社) ○第一連: 句読点がないにもかかわらず行が終わってしまって、文の内容は次の行へと 続いている。こうした形式は詩を読む上でしばしば読者を戸惑わせるが、バイロンはこの技法を 非常に効果的に用いている。一行目の"SHE walks in beauty like a night"で読者は当初、 この詩に暗いイメージを抱くだろう。もしくは夜のように美しいとはどういうことかと不信を抱く かもしれない。しかし次の行に至り、"the night is a cloudless one and the stars are bright"と 続くことが分かると、第一印象が見事に裏切られ、はっとさせられるのである。一つの文が 複数の行をまたぐこうした形式、enjambed lineは韻律の代用として、そこにこの詩の鍵となる ものがあると注意を促すことになる。 またバイロンは3、4行目に至って、先行する行の弱強格に 代えて強弱格を用いている。彼は"meet"という語を特別に強調し、次に続くこの女性独特の姿を 強調する。というのも彼女は、その内に全く正反対の2つの魅力を含んでいるのである。 ここでも行をまたぐenjambed lineが、読み手をぎくりとさせ、光と闇とが共にある、この女性の 魅力を伝えるのである。 ここで彼女の瞳"the eyes"について触れられていることも興味深い。 読み手は美の形として素直に瞳を思い描くかもしれないが、瞳というのは同時に、人間の内面的 魅力を連想させる。 瞳は心を映す鏡なのである。この女性は普通ならばはっきりと断絶されて いるはずの2つのものを有しており、しかもそこには無理や圧迫感といったものがない。 代わりにその両極端のものが円熟し、融合して柔らかくなった光は、天国でさえ昼間に与える ことのできない優しい光なのである。しかし 夜を否定的、もしくは昼を肯定的に捉えることは、 この詩に関しては適切ではないだろう。 夜も昼もこの詩の語り手にとっては喜ばしいものであり、 この2つのものが女性の内にあるということが彼の喜びなのである。 ○第二連:対照的な2つのものがここで再び結合する。表面上作者は彼女の外見の美しさを を取り上げているかのようだが、実際は"nameless grace"つまり彼女の髪や表情の内側に 言及していることが分かるだろうか。 この女性についての大変な魅力となっているものは、 外見と同じく内面にもあると作者は言うのである。また不思議なことに、この詩は歩く女性の 姿から始まっているにも関わらず、読み手は彼女の足や腕についてここまで何のイメージも 与えられていない。強いて言うならこれは「頭部」についての詩であり、言及される内容は髪や 瞳や顔や頬や眉に限られている。第二連の末行がこれを強調しているが、読み手は彼女の 心の中にある"dwelling place"、つまり彼女の精神に感銘を受けるのである。発音については、 "serenely sweet express"にあってスムーズに流れる"s"の音の繰り返しが、 彼女の無垢な思考、 その心がいかに純粋かを思い巡らす一助となっているようだ。 ○第三連:倫理的な性質を描写した最後の3行へと導くために、2行の物理的な描写を導入に 用いている。 柔らかい頬、愛嬌のある頬、肌の色合いは肉体的な美しさだけでなく、倫理的な 魅力をも証明するのである。 肉体の美は満足な日々や平穏な心、そして"a heart whose lobe is innocent"を反映する。 >>Edited by Goto, 2003, Oct. |
||
→ページの先頭へ |