「デジタル・アーキビストに必要とされる8方向撮影・記録の実習」
岐阜県郡上市白鳥町
国重要無形文化財「長滝白山神社 延年の舞」

 平成18年1月2日〜6日まで、約2mの積雪の中で、学生が中心になり「延年の舞」の撮影をいたしました。そこでは、デジタル・アーキビストとして必要な多方向(8方向)同時撮影方法とその処理について実習しました。
 デジタル・アーキビストの能力として、舞、舞台、文化、生活文化行動を正しく伝承するには、これまでの一方向からの記録から、各方向で記録した資料作りが重要となります。
 たとえば、寺社等の舞の記録の多くは、後方からの記録が主であり、正確な伝承、新しい文化創造資料や研究資料記録として残すためには、前方や横からの撮影が必要になってきます。このため、今回、次のような撮影方法を学習しました。

 @8方向からデジタルカメラを用いた撮影
 A8台のカメラを水平(同じ高さ)で同時撮影
 Bハイビジョンカメラ4台を用いた撮影

その他照明、カメラ位置、同時撮影装置などの検討や、多方向からの撮影によっていろいろなプライバシー、知的財産権等の課題も解決しなければなりません。


図1(8台同時シャッター)

(岐阜県、郡上市 白鳥長瀧の国重要無形文化財「延年の舞」撮影位置の例)

 3年生、2年生の学生が、プロのカメラマンや、教職員と協同し、正月の休日に約20名が参加し、デジタルカメラやハイビジョンビデオを十数ヶ所に設置して、大掛かりな撮影をいたしました。

 地域の人々にも大変にご協力いただき、6日には「延年の舞」の撮影を無事終えることができました。
 これまでの一方向からの撮影から文化財を同時に8方向から撮影しました。
 今後、これらを加工し、新しい文化財(特に舞などの無形文化財)の伝承の研究と、新しい創作活動へ発展させたいと学生達が課題をもつ取り組みを始めました。
 また、同時に学生達は、知的財産権、肖像権(プライバシー)等の学習も実践の中で学習を進めています。
 今後、このような多方向の映像・音声等の撮影・記録方法にともなう許可願いの作り方等の研究も進めます。


<撮影の状況>

長滝白山神社の様子
長滝白山神社の様子
舞台上の様子 カメラの設置
ノートパソコンで撮影画像の確認
ハイビジョンビデオカメラの設置
全方位(360°)カメラでの撮影
静止画8方向同時撮影装置
同時撮影シャッターを切る様子



<8画面の表示の方法>

 


<多方向の撮影・記録の特徴について>

 

伝統芸能資料として舞などを撮影記録する場合、全体の動きだけでなく、舞手の手や足の動作なども重要視されます。しかし、これまでの1方向からの撮影では、手や足の動作が撮影できず確認できない場合が多くあります。
これを多方向から同時撮影することにより、同時に撮影した画像のいくつかを比較することで手や足の動作などをはっきりと確認することができるようになります。8画面の中から、2画面を取り出し、比較することもできます。
「3」「7」の比較
「3」「6」の比較
 
  今回試行した8台のデジタル・カメラと同時シャッター装置を用いた撮影・記録で、たとえば上図の8画面のうち「3」と「7」を比較してみると、「3」では足が確認できませんが、その反対方向から撮影した「7」では、手前(正面向かって右)の舞手の左足が跳ね上がっているのが、はっきり確認することができます。
 また「3」と「6」を比較してみることにより、奥(正面向かって左)の舞手の足の運びを確認することができます。
 このように、これまでの一方向からの撮影では、得られなかった多くの情報が得られるようになりました。
 今後、いろいろな分野で実践的な試行・検討し、新しい文化の伝承の方法の開発を進めています。